大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)24号 判決 1974年6月18日

大阪市城東区野江中之町三丁目二一番地

原告

株式会社 帝国実業社

右代表者代表取締役

池田照夫

右訴訟代理人弁護士

坂本秀之

伊藤寿郎

大阪市城東区野江東一丁目四八番地

被告

城東税務署長

多田正友

右指定代理人

陶山博生

河口進

江里口隆司

仲村義哉

山本喜文

右当事者間の課税処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告に対し昭和四五年四月一日付でした、原告の昭和四二年の事業年度(事業年度は毎年一月一日から一二月三一日まで。以下各年の事業年度を単に昭和〇〇年度という)の法人税について、所得金額を金一、二一二、六六九円(異議決定により一部取消された後の額)とする決定および無申告加算税を金三三、九〇〇円(異議決定により一部取消された後の額)とする賦課決定、昭和四三年度の法人税について所得金額を金一、四〇二、六六八円(異議決定により一部取消された後の額)とする決定および無申告加算税を金三九、二〇〇円(異議決定により一部取消された後の額)とする賦課決定、ならびに昭和四四年度の法人税について所得金額を金二、七一八、一三二円(異議決定により一部取消された後の額)とする決定および無申告加算税を金七九、三〇〇円(異議決定により一部取消された後の額)とする賦課決定をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

第二当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、昭和四二年度から昭和四四年度までの各法人税の確定申告を怠つていたところ、被告は昭和四五年四月一日付で、昭和四二年度の法人税につき所得金額を金一、九三八、〇〇〇円と決定し、無申告加算税金五四、二〇〇円を賦課し、昭和四三年度の法人税につき所得金額を金二、五二一、〇〇〇円と決定し、無申告加算税金七二、四〇〇円を賦課し、昭和四四年度の法人税につき所得金額を金二、九九一、七三三円と決定し、無申告加算税金八八、八〇〇円を賦課した。原告はこれらの処分につき、被告に異議申立をしたところ、被告は、右各処分をいずれも一部取消し、昭和四二年度につき所得金額を金一、二一二、六六九円、無申告加算税を金三三、九〇〇円とし、昭和四三年度につき所得金額を金一、四〇二、六六八円、無申告加算税を金三九、二〇〇円とし、昭和四四年度につき所得金額を金二、七一八、一三二円、無申告加算税を金七九、三〇〇円と決定した。これに対し原告は更に国税不服審判所長に審査請求をしたが棄却された。

2  しかしながら、被告のした本件各処分は、本件各事業年度における原告の所得がないにもかかわらず、所得があるとしてなされたものであるからいずれも違法である。

二、請求原因に対する被告の答弁

請求原因1の事実を認め、同2の主張を争う。

三、被告の主張

1  原告の本件各事業年度の所得金額、および無申告加算税は別表のとおりであるから本件各処分に違法はない。

2  別表番号<2>の減価償却費否認額について

原告は異議申立において別表番号<2>の各金額を本件各事業年度の減価償却費として主張したが、法人税法三一条一項によれば、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、減価償却資産につき減価償却費として当該事業年度の損金の額に算入することができるのは、その法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理(法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう―同法二条二六号)をした金額でなければならないところ、原告においては、本件各処分時まで、株主総会の承認を得て確定した本件各事業年度の決算は存在せず、したがつて本件各事業年度における減価償却費の損金経理も全くなされていなかつたのであるから、原告主張の減価償却費は右の要件に該当しないことは明らかであり、これを本件各事業年度分の損金の額に算入することはできない。

四、被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張1中別表番号<1>、<3>ないし<6>の各金額を認め、その余を争う。

2  同2の主張を争う。

原告は、別表番号<2>の各金額を本件各事業年度の決算において減価償却費として損金経理し、これらの決算は、昭和四二年度については昭和四四年二月二七日、昭和四四年度については昭和四五年二月二六日にそれぞれ開催された株主総会において、いずれも承認の決議がなされて確定していた。

第三証拠

一、原告

1  甲第一、第二号証の各一ないし三、第三号証の一、二、第四ないし第九号証。

2  原告代表者本人尋問の結果を援用。

3  乙号各証の成立を認める。

二、被告

1  乙第一ないし第三号証を提出。

2  証人山内魏の証言を援用。

3  甲第四ないし第九号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認める。

理由

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二、本件各事業年度における原告の所得の有無について検討する。

別表番号<1>、<3>ないし<6>の各金額は当事者間に争いがないから、本件の争点は、別表番号<2>の各金額を本件各事業年度の所得の計算上減価償却費として損金の額に算入することができるかどうかという点に帰する。

法人税法三一条一項(本件では、昭和四二年度については、昭四〇年法三四号、昭和四三年度、昭和四四年度については昭四二年法二一号改正によるもの)、二条二六号、同法施行令五八条一項(本件では昭和四二年度については昭四一年政七四号改正、昭和四三年度、昭和四四年度については昭四二年政一〇六号改正によるもの)によれば、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、減価償却資産につき減価償却費として当該事業年度の損金の額に算入することができるのは、その法人が当該事業年度において、その確定した決算において償却費として損金経理をした金額でなければならない。そして株式会社の決算は、決算書類のすべての金額につき株主総会の承認がなされることによつて確定する(商法二八三条一項)のであるから、おそくとも法人税税額の決定がなされる以前に株主総会の承認がされていなければならない。

そこで本件各処分時(昭和四五年四月一日)までに、原告において、果して株主総会の承認を得て確立した本件各事業年度の決算が存在していたかどうかについて検討する。

原告は、別表番号<2>の各金額を本件各事業年度の決算において減価償却費として損金経理し、これらの決算は、昭和四二年度については昭和四三年二月二五日、昭和四三年度については昭和四四年二月二七日、昭和四四年度については昭和四五年二月二六日にそれぞれ開催された株主総会において、いずれも承認の決議がなされて確定したと主張するけれども、これに副う甲第四ないし第九号証の記載および原告代表者本人尋問の結果の一部は、後掲各証拠およびこれにより認められる後示事実に照して採用することができない。却つて成立に争いのない乙第一号証、証人山内魏の証言および原告代表者本人尋問の結果によれば、原告代表者は、昭和四五年三月三日に被告職員による税務調査が行なわれた際、本件各事業年度の決算書を同月末日までに被告に提出する旨約した(この認定に反する原告代表者本人尋問の結果の一部は信用し難い)にもかかわらず、本件各処分が行なわれるまでこれを実行しなかつた事実が認められ、―仮に原告主張のように確定した決算が存在していたのであれば、当然これらを被告に提示することができたであろうし、各事業年度の申告期限までに確定申告をすることさえ容易にできたはずである―また甲第七号証は、原告の主張する昭和四三年二月二五日開催の株主総会において承認された昭和四二年度の営業報告書(作成日付は昭和四三年二月二五日)であるとして提出された書証であつて、これには、貸借対照表資産の部の科目欄に当座預金及び普通預金の銀行名として「中京」と記載されており、これは、原告代表者本人尋問の結果によれば、株式会社中京相互銀行を表示して記載されたものと認められるところ、成立に争いのない乙第三号証によれば、同銀行は昭和四四年五月一日に旧株式会社太道相互銀行の商号を変更したものであつて、甲第七号証の作成日当時は旧商号を使用していたことが明らかであるから、右甲号証はその作成日付には作成されていなかつたことが推認される。以上認定の諸事実を考え合わせると、原告の主張に副う前掲各証拠はいずれも信用し難く、原告においては、本件各処分時まで、株主総会の承認を得て確定した本件各事業年度の決算が存在しなかつたというほかはない。したがつて、別表番号<2>の各金額は、本件各事業年度の所得の計算上減価償却費として損金の額に算入することはできない。

以上によれば、原告の本件各事業年度の所得金額は別表のとおりとなるから、本件各決定処分およびこれに付随してなされた本件各無申告加算税賦課決定処分に違法はない。

三、そうすると、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 裁判官 石井彦寿)

別表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例